もう一度、始めよう 1その日、火月は運命の出会いをした。それは、スケートリンクで行われた体験教室での事だった。 「皆さん、今日は素敵な先生に来て貰いました!土御門有匡さんです!」 流れるように火月たちの前に現れたのは、世界王者の土御門有匡だった。 美しく艶やかな腰下まである黒髪をポニーテールにし、碧みがかった切れ長の黒い瞳をした彼を一目見た瞬間、火月は彼に一目惚れした。 「火月ちゃん、どうしたの?」 「先生、僕、あの人のお嫁さんになる!」 その日から、火月はスケートに精を出すようになった。 「火月、頑張っているわね。」 「あのね、将来、オリンピックで金メダルを獲りたいの!」 「まぁ、素敵な夢ね。」 両親は、火月の夢を子供の戯言だと思っていたのだが、彼は彼女が本気でオリンピックを目指している事を知り、全力で娘を応援するようになった。 火月はジュニア女子で数々の好成績を残し、金髪紅眼の愛くるしい容姿故に、周囲から“生きた宝石”と呼ばれていた。 火月が銀盤で頭角を現している頃、有匡はスランプに陥っていた。 原因は、左耳が聴こえ辛くなった事だった。 その所為で、ジャンプやステップのタイミングがずれてしまう。 耳鼻咽喉科の名医に診て貰った所、突発性難聴と診断された。 「それは、すぐに治るのですか?」 「いいえ・・今の所、治療法が見つかっていませんので、何とも・・」 その診断を受けたのは、オリンピックを半年後に控えた時だった。 半年後、有匡は平昌五輪で四大会連続金メダルを獲得し、選手として引退することを発表した。 「そんな、嘘でしょ・・」 有匡が選手として現役を引退したニュースを知った火月は、スマートフォンの画面から暫く釘付けになった。 「火月ちゃん、そろそろ時間よ。」 「は、はい!」 火月はコーチから呼ばれて、スマートフォンをジャージのポケットにしまうと、慌てて更衣室から出ていった。 「さぁ、行ってらっしゃい!」 「はい!」 今日は、火月にとって特別な日だった。 シニアデビューを飾る世界選手権大会で、火月は入賞も出来なかった。 「はあ・・」 女子トイレの個室で何度目かの溜息を吐いた後、火月はバンケットの会場となるホテルの宴会場に入った。 すると、宴会場の注目を集めている世界女王の隣に居る有匡と火月は目が合った。 (え、嘘でしょ!?) 憧れの人を前に、火月はまるで金縛りに遭ったかのようにその場から動けなかった。 気を紛らわす為に、火月は会場の隅でシャンパンをチビチビと飲み―泥酔してしまった。 「え・・」 気が付けば、火月は有匡とタンゴを踊っていた。 「ふ~ん、鉄面皮だと思っていたのに、あんな顔するんだね。」 そう呟いた有匡の妹・神官は、脳裏を一瞬前世の記憶が掠めたような気がした。 (ま、アリマサはカゲツの事、憶えているのかな?) 有匡と神官の共通点―それは、前世でも今世でも実の兄妹だという事だった。 二人には、前世の記憶があった。 |